現身日記(うつせみにっき)

lo-tus2006-08-03


今年は梅雨のシッポが長かったので、最近ようやく夏らしくなったと思えばもう8月。暑さばかりでなく頭の中が雑事で占められて、しばらく日記を書く気もしなくて久しぶり。

暑さといえば、昆虫たちは環境に敏感なもので、この熱気を待っていたかのように蝉の勢いが増してきた。いよいよ、というかようやく夏の喧騒だ。


 蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
 蝉が鳴いてゐるほかなんにもない !
 うつらうつらと僕はする
 ……風もある……
 松林を透いて空が見える
 うつらうつらと僕はする。


と書いたのは中原中也

緑の少ない都会では、公園のようなわずかな緑を見つけて蝉が集まるせいか、ベンチに座ると鳴き声に圧倒される。この声は10年前にも聴いたし、子供のころにも聴いた。蝉の声はザーッと体にしみ込み、だんだん自分がどこにいるのか分からなくなって、心が空っぽになってゆく。昼下がりの公園の真ん中の空き地のように。キャッチボールをする少年も無く、置き去りにされた空き地のように・・・。

「蝉は何年も土の中で暮らし、ようやく出てきたと思ったら、わずか数週間で逝く。切なくてかわいそうだね」なんていうのはいかにも人間が考えそうな感傷。でも実際蝉の気持ちになれば、長い地下生活こそ楽しくて充実した時期で、地上での数週間は余生というか、老後のオマケ程度なのかもしれない。それは蝉に聞いてみないと分からないけどね。

暑いとか忙しいとかブツブツいいながら、僕も毎日現身(うつせみ)生活。必死に声を張り上げる蝉の仲間のような気もしてきた。

取り留めないので、このへんで。


P.S.
長い間お会いしてませんね。
夏休みの文庫本は買いましたか?
暑い折、どうぞご自愛ください。