lo-tus2007-01-27


子どもの頃、一人遊びが好きな子だった。それは大人になってもあまり変わらないけど。今日も寒くて、一人で部屋にいると、子どもの頃よくやった遊びを思い出した。それは鏡遊び。
壁に掛かっている鏡を外して床に置く。それを上からのぞき込むと、自分の顔が映る。天井も映る。するとたちまち、鏡の向こうにもう一つの世界があるような気がしてくるのだ。鏡は床にあいた異次元の穴。鏡に映っている自分は、もう一人の自分。その奥には、まだ自分が知らない国がある・・・。手を伸ばせば、スルッと「あっち側」へ入っていけそうな気がした。
それは本当に子どもの夢想だったが、大人になってある映画を見て、そんな感覚をまたリアルに思い出した。ジャン・コクトーの『オルフェ』。鏡をくぐって、あの世とこの世を行き来するオルフェ(ジャン・マレー)の姿を見て、無性になつかしくなったものだ。


今、そんな鏡遊びをしなくなったかわりに、毎朝歯を磨き、鏡を見ては髪を整える。子どもの頃に比べて表情が増えたのか減ったのかは分からない。しかし、ふと思う。その鏡に映っているのは一体誰?それは「鏡に映った自分を見ている自分」なのであって、日常の生活場面で他人から見えている「自然な自分」とは少し違うような気がするのだ。そうすると「自然な自分=本当の自分」を自分の目で見るのは永遠に不可能ということになる。写真やビデオに映った自分も、やっぱり違う。あれは小さな二次元の自分だから・・・。
自分には自分が見えない、という事実。でもそれがどうした?自分がどんなヤツかなんて、自分で決められるものではない。他人に見てもらって、適当に決めてもらえばいいのだ。多分、会う人によって、違う顔をしているかもしれない。ある人には「やさしい人」に見えたり、ある人には悪人に見えたり・・・。


なんだかバカバカしくなってきた。こうなったらふざけるしかない。鏡に向かって百面相をしてみた。自分がどれだけ顔を変えたって、相変わらず鏡の奥には「あっち側」の世界が広がっている。1分60秒という時間が確実に流れる「こっち側」の世界などどこ吹く風・・・といったような静かな世界が広がっている。