Swallowtail

lo-tus2006-05-16


仕事の合間、ベランダに出て深呼吸したら、サッと目の前を黒い影が走った。軽やかな羽ばたき、自由な身のこなし。風を我がものにして緩急自在に飛ぶ燕尾服は、そう、ツバメ君。

ツバメを見ると嬉しくなる。ずっと昔からそう。まったく超然とした態度で美しく飛ぶから。それに、南の国から夏を連れてきてくれるから。つまるところ、自分はあんなふうになりたいのだと思う。

でもツバメは、そんな超然とした態度でありながら、人目を避けることがない。堂々と人の家に居候しては、せっせとヒナを育てる。跳び上がっても手の届かない場所に巣を作り、ちっとも馴れ馴れしくない。付かず離れず、ただ自分のペースで粛々と仕事するだけ。ますます自分は、あんなふうになりたいのだと思う。

子供の頃、一度でいいからツバメに触れたくて、いたずら心で捕まえたことがある。ただ一度だけ。あのときの、すべすべの羽の感触と怯えた丸い目は忘れない。僕の手も震えていた。そっと逃がしてあげたけど、それから数年間は飛んで来なくなった。何度目かの春に戻ってきてくれた時は、許してくれたのかと本当に感謝した。あんなことしなければよかったと、それは今でも後悔している。

そうだ、ツバメの巣の中には時たま石が入っていて、それを見つけて大切に持っていると幸運がやってくる…。ヨーロッパのどこかの国にそんな伝説があったっけ?

明日も、来年も、次の年も、5月の空にはスワローテールを追いかけたい。人が袖を通せない、夢の燕尾服をね。