(15)水琴窟の中の宇宙

lo-tus2006-10-24


以前、右京区妙心寺にある退蔵院というお寺を訪ねたことがあります。ここは見事な枯山水の庭と国宝の絵画が有名なお寺なんですが、目的はそのどちらでもなくて、実はそこには水琴窟(すいきんくつ)があると聞いて、ぜひぜひその音を聴きたくなった、というのがそもそもの動機。
水琴窟?何それ??、とおっしゃる方のために一応説明しますと、日本庭園や茶室にあるつくばいや手水鉢(ちょうずばち)に備え付けられた音響装置のことなんですね。発明されたのは江戸時代初期。手水鉢の下の地中に大きな陶器の甕(かめ)が伏せて埋められていて、その中に水滴を落とすことで反響して「ポロンポロン」と、まるで琴の音のような妙なる音が聞こえるのです。
お寺の門をくぐり、庭園の順路をたどり、そしてついに石のつくばいを発見!しかしその横には、高さ1メートル半ほどの妙な竹の筒が地面から突き出ているではないですか!あれは何だ?と近づいて見るとその竹に「耳を近づけて下さい」と書かれていて、音を聴くための竹筒だと判明。ワクワクしながら耳を当ててみると・・・聴こえました!水滴の落ちる湿った音が。琴の音よりももっと繊細に、複雑な残響とともに次から次へと聴こえてきます。一滴一滴、微妙に違うその響きを聴いていると何だか気持ち良くて、延々と聴いていたい気分に。
この水琴窟という代物を発明した人は、かなりの音響マニアだったのではないかと察します。今はフィールドレコーディング・環境音がCDで売られている時代ですが、この人は先駆けること約400年!暮らしの中にこんな瞑想的な音を取り入れていたのです。今で言うアンビエント音響派のハシリ。ただ水が落ちるという原始的な音にエフェクターをかけて、これほど魅力的な音に変えてしまうとは。It's Magic ! *1
しかも水滴が落ちる瞬間が、外からは見えないところがまたニクい!決してみんなで聴くものではなくて、一人ずつしか聴くことができないので「のぞき見」ではなくて「のぞき聴き」。ちょっとマニアな好奇心がくすぐられます。*2
音が鳴っている現場の風景は、思い浮かべるしかありません。いろいろ想像をかき立てられます。ある時は雨だれが浮かんだり、ある時は川の源流が浮かんだり。さらに大げさに「水(≒生命)がここに誕生!」なんて空想すると、小さな水琴窟からどんどん頭がジャンプ。この中には何か宇宙のからくりが隠されているのではないかとさえ決めつけたくなります。

*1:これに似た反響効果を取り入れた録音といえば、清水靖晃さんのサックスによるバッハを思い出します。洞窟などにこもってサックスを吹いたとか。こちらもいい音してます。

*2:ちょうど万華鏡をのぞき込む時のような静かな興奮が・・・。万華鏡もやはり一人で見るもの。それは異次元への誘惑・・・。