La Passion de Jeanne d'Arc

lo-tus2008-04-29


なんで今までこんなスゴイものを見過ごしていたんだろう?久々に映画見てガツンと衝撃を受けました。その映画とはカール・ドライヤー監督の『裁かるるジャンヌ』。昨夜初めて、みなみ会館のレイトショーで見てきました。この4月を最後に、つまり明日で日本における上映権利が終了するそうで・・・、間に合って良かった!
それはドライヤー監督の代表作で、1927年に作られた無声映画。そこには勇ましいジャンヌ・ダルクは出てきません。裁判に掛けられてから火刑に処されるまでの、彼女の葛藤を描いた心理劇。ストーリーは淡々として、まったく音楽もないので(すべて監督の意図で)静かな映画のはずなのに・・・。なのに97分間、自分の胸の中は激しくざわついていました。登場人物の声、裁判、火や風の音、怒号、争い・・・そんな物音たちが、普通の映画の何倍もリアルに聞こえてきそうなド迫力。
この映画は、ひと言で言って「映画として素晴らしい」。
モノクロなので色がない。無声映画なのでセリフも音楽もない。俳優の表情や動き、風景やオブジェクトのカット割りですべて表現しなければならないので、誤魔化しようがないのです。ストイックなまでに映画的。特に主役のジャンヌ・ダルクをはじめ、悪役めいた神官たちのアップの絵が多用され、1シーン1シーンごとの顔の表現力(=表情と言うよりも、人間というグロテスクな物体の有様)には圧倒されました。そして、火が燃え上がるラストのスピード感と、今なお斬新なカット割りには、監督の神業を目撃します。やっぱりこの映画は何のセリフも音もいらない!「無声」以外では見たくない、と思います。
ちなみにゴダールの『男と女のいる舗道』で、アンナ・カリーナがこの映画を観て涙を流すシーンがあります。「あれは泣くよ」と、アンナの気持ち、昨夜分かりました。