ミツバチのささやき

lo-tus2009-01-12

いい映画と言うのは何度でも見たくなるし、見るたびに新しい発見があるし、また年とともに感動するところが増えていきます。ビクトル・エリセミツバチのささやき」もそんな映画。10年ぶりにニュープリントで劇場公開されるということで、行ってきました。僕自身は、10年以上久しぶりに観ました。一緒に公開された「エル・スール」もやっぱり観ました。こちらも素晴らしかったです。
ビクトル・エリセ監督は10年に1本しか作らないような寡作で有名ですが、もうホントに好きな作家です。一番最近観たオムニバス映画『10ミニッツ・オールダー 』では、わずか10分の作品だったけど、他の名だたる監督より抜群に良かったし・・・。せめて5年に1本は作ってほしいところですが、どうでしょう?
さて「ミツバチのささやき」と言えば、主役のアナ・トレント。もちろん、スクリーンの中では相変わらずかわいくて、目の澄んだ少女です(永遠に)。彼女をとりまくいろんなエピソードが綴られていくのですが、だからと言って、この映画は少女の視点で(つまり少女趣味で)撮られていないところがいいのです。過酷な現実世界(大人の世界)と、時々顔を出す霊的な世界の境界に彼女は立っています。どちらの世界も彼女にとっては同列で(時にファンタジックに、時に残酷に・・・)、たまにお互いの世界が干渉する。そういう世界のあり方をすべて「現実」として、カメラは少し離れたところからクールにとらえている・・・。
またこの映画はセリフや説明が少なくて、一番最初に見た時、とても謎めいた詩的な映画に見えました。それは今でも変わらないのですが、加えてもっとリアルな映画に見えました。そのリアルと言うのは、漠然としているけれど「人間の営み」としか言い様のない、普遍的な日々の出来事や心の動きが記録されているからだと思います。だから、舞台はスペインの田園地帯だけれど、世界のどの国の誰が見ても同じように共感できるのではないでしょうか?人の営みは、ミツバチが巣を作るようなものだ・・・。
それからもひとつ書いておきたいのが、この映画の光の美しさ。明るい太陽が照らすスペインの大地から、室内の薄明かり、顔の微妙な陰翳まで光の表情だけ見ていても飽きません。99分至福の映像。どうしても映画館で見たい作品の一つです。
ちなみに監督は、小津や溝口、松尾芭蕉まで愛する日本通だそうです。新作、期待してますから・・・。