かわいい獅子

lo-tus2009-10-05


秋祭りのシーズン。右の写真は、昨日あった「ずいき祭(京都・北野天満宮)」のひとコマで、お馴染み「獅子が子どもの頭を噛み噛みする図」です。すごいですね。このまま坊やを丸呑みしそうな勢いです。昔から「獅子に頭を噛まれると、賢い子になる」と信じられています。もちろん僕も信じてます。僕は子どもではないけれど、本当は今でも噛んでほしいぐらいで・・・「大の大人が?」という周囲の冷たい視線を懸念して言い出せないだけなのです。
僕は普段あまり「かわいい」という言葉を使わないし、ディズニーやサンリオ系のファンシーキャラを見たところで、全然カワイイとも思わないんですが、この獅子は刺さります。ハッキリ言いますけど、かわいいです。離れた丸い目玉、淀川長治さんよりも太い眉、サブちゃんを思わせる横広がりの大きな鼻、カタカタいう平たい口(総金歯!)、そして全体的に文字通り「ひとを喰った」ようなファニーフェイス。なかなかどうして、愛嬌があるんです。日本の獅子も良いですが、もっとかわいいのはその親玉のような存在、バリ島のバロン獅子。これは本当に好きで、お面など部屋に飾っているぐらい。
さてお祭りでは、親やじいさん・ばあさんに抱かれた幼子が次々と獅子の生贄になっていきます。「どうか、かわいいウチの子を賢くしてやってください」とばかりに、次々と差し出されていく頭、頭、頭・・・。見ていると、ほとんどの小さな子どもは嫌がって泣き叫んでいる。得体の知れない獅子のお化けが近づいて来るだけでも恐いのに、その上食われそうになるんだから、お菓子や当て物で盛り上がった楽しいお祭りムードもぶっ飛んでしまうでしょう。そして面白がって見ている周囲の大人たちを心底恨んでいるでしょう。泣きすぎて声が嗄れている子さえいましたからその威力は絶大。トラウマにならないことを祈ります。トラでもウマでもなく「シシ」なんですから。つまらないダジャレはともかく、見ている側としては獅子単体よりも、子どもの頭を噛む、そして泣くという、このセットの絵こそが最も「かわいい」シチュエーションです。
大人になって初めて獅子の顔を「かわいい」などと表現できますが、あの顔は子どもを恐がらせる要素がギュッと凝縮された「根源的に恐い顔」なのでしょうね。それに獅子が頭を噛むという行為、冷静に見るとすごく残酷です。本当のライオンに頭を噛まれることを考えると、青少年に禁止されているそのへんのホラー映画よりも、もっと恐ろしいイメージが「祭」と言う場を借りて公然と演じられていることになります。しかし秋田のナマハゲなどの例もあるように「恐ろしいものが福を運ぶ」というのは、何か神話的なパターンのように思えます。善悪がハッキリ別れているよりも、こうした魔物だってまったくの悪と言い切れないような世界観・・・なかなか奥深いと思うのです。
子どもも小学生ぐらいになると落ち着いたもので、自ら素直に頭を差し出していました。こうなるとかわいさも半減。だからと言って恐ろしい獅子の口の奥にある闇は決して見てはいけません。もし見てしまえば・・・獅子を被って町内のために必死に働く、近所のオッチャンと普段ありえないような至近距離で目を合わせてしまうことになるという恐怖が。ある意味こっちのほうがトラウマになるかも、むしろ。