パラジャーノフ祭

lo-tus2009-12-02


パラジャーノフ監督の「ざくろの色」は、しばらくDVDが廃盤になっていたのですが、この秋、3枚組のプレミアムエディションとしてバージョンアップ再発されました。我が家には、昔テレビで録画したアナログビデオしかなかったので、これはすかさず買いました。また一つ家宝が仲間入り。
ざくろの色」本編を見直して見ると、やっぱり何度観てもすごい!感動ついでに、現存する監督作品の他の3本も観たくなり「火の馬」→「スラム砦の伝説」→「アシク・ケリブ」と、立て続けに観賞(自慢ですが、全作品ビデオで持ってます!)。極彩色の映像、極度に抽象化されたイメージの連鎖、そしてアルメニアグルジアなどのエキゾチックな民族音楽の調べが渾然一体となって、異次元に連れていってくれます。感動というものを超えて、もう放心状態。そんなわけで、最近個人的には大々的にパラジャーノフ祭開催中、頭はユーラシアの奥地を彷徨い、ちょっとヤバイ状態です。
さて今回のプレミアムエディション、本編の他に特典映像も面白かったです。なんと、パラジャーノフ監督の助手を務めた人が、当時のソ連当局の検閲によってカットされた未公開映像を再編集。「裏・ざくろの色」が収録されています。というのも1967年の作品公開から何十年か後に、奇跡的に元のフィルムが発見されたから。だから、実は今「ざくろの色」として公開されている作品は、検閲を逃れるために第三者によってかなり編集を加えられたバージョンであって、十分に監督の意図を反映したものではない、ということになります。たとえそうであっても「ざくろの色」は十分に人を打ちのめすほどの力のある作品なのですが、あれに本当の監督の意図が付け加えられたならば、一体どれほどスゴイことになるんだろうか・・・これは興味深いです。で、その問題の未公開部分をゾクゾクしながら拝見しました。
「裏・ざくろの色」・・・同じ登場人物の見慣れない映像が新鮮。「表・ざくろの色」よりももっと官能的で直接的なイメージが溢れていて、つまり分かり易い表現が多かったので、なるほど、こいつは無粋な役人の怒りをかっても仕方ないだろうなと思いました。「ざくろの色」は編集によって表現がぼかされ、かえって難解になってしまったのではないでしょうか?しかしもう一度言います。他人の編集後であっても、映画史上において最大級のインパクトのある作品になってますが。
パラジャーノフ監督も故人なので、昔より自由になった今の世界で「本当のざくろ色」を、監督の意図通りに再編してもらうことは当然不可能ですが、その手がかり程度は知ることができて良かったです。
思えばパラジャーノフ監督は、「ざくろの色」公開後15年間、当局から映画人としての職を奪われているんですね。うち5年は獄中生活。働き盛りの15年間を棒に振ってしまったことは、どれほど耐え難いことか・・・想像を絶します。もっとたくさん撮ってほしかったと言うのが正直なところですが、逆にあの時代あの状況の中でしか生まれ得なかったアートと言うこともできるので、その判断は何とも言えません。(自由主義国家で作られる映画とて、本当に自由に作られている作品など一握り。「商業ベース」というのが検閲みたいなもの)同じように苦い思いをしたソ連の監督、大好きなタルコフスキー作品群も然り。パラジャーノフの遺作「アシク・ケリブ」のラストには、先に他界した親友「アンドレイ・タルコフスキーに捧ぐ」の文字があります。