逃げ去るイメージ

lo-tus2006-11-19


アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真集『決定的瞬間』は、装丁がマティスでフランス語の原題『Images a la sauvette』は“逃げ去るイメージ”という意味。その「逃げ去るイメージ」のほうがずっといいと思う(トリュフォー逃げ去る恋』も連想)。でも“決定的瞬間”のほうがキャッチーではあるが。

カルティエブレッソンドキュメンタリー映画『瞬間の記憶』を見てきた。人前に顔を出すことがほとんど無かった彼が、人生の最期に初めて、その半生と作品について語った。2004年に95歳で亡くなったカルティエブレッソンは、この映画の中では93歳。まるで遺言のような作品だ。
その写真は『決定的瞬間』というタイトルの通り、まさに「その時」が刻まれている。一瞬先でもなく、一瞬後でもない「その時」が。彼は「その時」に立ち会い、切り取る感覚が並外れていて、それは「ゴッド・ハンド」ならぬ、「ゴッド・アイ」と呼びたくなる。あの完璧な構図の写真が、すべてスナップとは!信じられないが、彼の写真に「演出」はあり得ない。写された状況を見れば分かる。多分、メガネをかけるよりもカメラをのぞくほうが、世界がよく見えたのかもしれない。しかも止まって見えたのかもしれない。

映画の中で、昔のプリントを一枚一枚取り出し、冗談交じりに語る老いたカルティエブレッソン。それだけでジワッとくるものがあった。この人は、世界を放浪し20世紀を見てきたのだ!


「写真なんて、そんなに情熱を注ぐものではない。一瞬の勝負だ」
「まだまだ。いいぞ。そう、まだまだ。いいぞ。今だ! 写真はこうやって撮る」
「構図が正しければトリミングは必要ない」
                ―――アンリ・カルティエ=ブレッソン



時間は流れるし、世界は変わる。そんな「逃げ去るイメージ」に対して、写真ができるささやかな抵抗、時間を仕留める射撃ゲーム・・・。シャッターを押す行為とはそんなものだ。

こういう写真を見ると、「ライカでスナップ」してみたくなる(昔からずーっと思っているのにぜんぜん実現してない)。
僕も写真を撮るのは好きだが、その理由は・・・
“自分が撮られるのが嫌いだから”だったり。