知識人99人の死に方

lo-tus2007-02-16


最近『知識人99人の死に方』という、縁起でもない本を読みました。近代以降の作家や学者など99人が、どのような最期を遂げたかについて書かれた本。
知識人といえどもやはり人間。死が近づいたと意識したときは、怯えたり、気弱になったり、やさしくなったり、真面目になったり、禅僧のごとく悟ったり・・・。ほとんどの人がそういう「異変」を経験します。これは知識人でなくたって、誰だってそうなると思います。
が、しかしです。モノには例外がつきもので、今回の99人の中でも特に面白かった人が(と言ってはバチが当たるかもしれませんが)二人います。稲垣足穂森茉莉。文壇を代表するエキセントリックなキャラクターの2人のこと、死ぬ前に「ありがとう」とか「サヨウナラ」とか、涙を誘うようなセリフを吐くかと思ったら大間違い。やっぱり死ぬまでヘンコでした。これはある意味スゴイことだと思います。そしてある意味尊敬します。

稲垣足穂の場合
とにかく口の減らないジジイだったそうです。そこでタルホ語録。
文学賞をもらった時「選考委員に感謝の念なんておきませんよ。アイツらもよくここまできたなあという感じですな」(←なら賞もらわなきゃいいのに)
・「漱石、鴎外は書生文学。三島?ケンランたる作品が多いが、ドキッとするものがないや」(←なんとなく言い得ている)
・ガンで入院して看護婦に「おじいさん」と呼ばれたとき、「稲垣と呼んでください!」と怒ったとか。(←もちろん「稲垣さん」よりも「稲垣」と呼び捨てにされるほうが、ドキドキするでしょう)
最後の2年間は、足腰が立たないのに、東京の女性ファンの家に引っ越す計画を立てたり、自作ばかり布団で読みふけっていたということです。ぶっ飛んだ人だなあ・・・。

森茉莉の場合
作風に反して、陽の差さない住み家が好きでした。小説を書き始めると何も見えなくなり、水漏れで部屋だけでなく下の階まで水浸しにしてしまったり、ぼや騒ぎも何度か。管理人に再三注意されても「あら、出てたの?」とサラリ。また、自分の部屋を他人に触られるのを嫌い、親友・萩原洋子がゴミ袋を2つ出しただけで「余計なことをする!」と激怒。貧血を起こして病院に運ばれたとか。最後は独り住まいのアパートで、ひっそり死。電話に手を伸ばしかけたまま、夢見るような安らかな顔で・・・。

読んでいる分には面白いですが、こんなキテレツなジイサン・バアサンがもし身の回りにいたら、ゼッタイ看病してやるもんかと思うでしょうね。ただ、なんとなく憎めない気はします。むしろ、あんな美しい文章をこの世に残して死ぬなんて、カッコいいとも言いたくなる。
いや、待てよ?そもそも彼らは普通の人と同じ世界には生きていなかったのかもね。