CM Lounge 2

lo-tus2008-01-10

最近入手した音源、CM Lounge第2弾として紹介したいのが「樋口康雄 CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ(1972-1991)」です。
CM音楽はお茶の間のラウンジ・ミュージック。普段テレビから流れてくる音は、映像や言葉に気を取られてじっくり聴くことが少ないわけですが、よく聴くと実に凝った作りの音楽がたくさんあります。その昔ブライアン・イーノが「Music For Airport」で環境音楽を打ち出しましたが、表現方法は違うものの、CM音楽もこれに近いかも。「なんとなく流れている音楽」「真剣に構えて聴いてはいけない音楽」という意味で。
ところがどっこい、たまに真剣に聴いてみると、これがなかなかスゴイんだ。今回初めて触れる樋口康雄さん(知らず知らずのうちに耳にしてきたとは思いますが)。特に70年代の作品群はソフトロック、ジャズコーラスフリーソウル風あり、かと思うとクラシック&バッハ風、ラテン風、歌謡曲風ありで、その音楽性の幅広さは驚異的。古今東西の音楽万博・全66曲!といった感じなんです。日本にも70年代に、こんなLounge な音を作っていた人がいたのかと面食らいました。
CM音楽なので当然短くて、30秒とか1分程度。もっと聴きたい!と思ったところでバサッと終わる潔さ。オケがカッコいいのに、歌詞が「♪愛には形がないから、お料理で心を伝えます〜♪♪」とか「♪カロリー半分・・・♪」などと、かーるいCMソングがのっかっているという、ズレズレ感も聴きどころ。キャッチーな音とユーモアがきらめく・・・これはもう「音の俳句」ですね。
ライナーノーツのインタビューによると、樋口さんは映像を補おうと思って音楽を作っているのではなくて、逆に映像を破壊する気持ちで作っているそうです。なぜなら、強い映像はどんな音楽をつけてもびくともしないから。強い映像と強い音楽が合わさって、また何倍も良くなるという信念を持っていらっしゃる。
それにクライアントからの潤沢な予算があるし、曲自体はヒットを意識しなくてもいいので、とにかく好き放題に作るんだそうです。例えば昔の渋谷西武のCMで、最初の5秒は筑前琵琶、その後シンセが出てきて、最後の5秒がオーケストラというスゴイ構成の曲もあります(信じがたいぐらい自然につながっている)。この時、たった5秒のためにフルオーケストラを雇ったという・・・なるほど、やりたい放題ですよね。
CM音楽は、自発的に自由に思いを込める「創作アート」とは違って、クライアントからテーマを与えられ、他のスタッフと一緒に進められる共同作業です。そんな制約の中でさえ実験精神とユーモアを発揮して、誰も真似できないような世界を生み出す樋口さん・・・。ゲームはルールがあるから面白い。ただモノを作るだけじゃなくて、そういう遊び(ゲーム)ができる軽やかさというのも、本当に素敵な才能だと思います。