炎のレクイエム

lo-tus2008-03-12


先日ジャズピアニストの山下洋輔さんが日本海の浜辺で、燃えるピアノを弾くというパフォーマンスをされていました。このパフォーマンスの名前は「ピアノ炎上2008」。金沢21 世紀美術館で行なわれた「粟津潔展」関連企画で、粟津氏1973年の実験映像「ピアノ炎上」の35年ぶりの再演だとか。
ニュース映像を見ると、消防服を着た山下さんが炎につつまれそうになりながら熱弾(?)していらっしゃる。熱そう。それに危険。ヨイコのみんなは真似するんじゃないそ!!
山下さんといえば鍵盤を肘で打ったりする過激なスタイルで、「さすが炎のピアニスト、火が出そうな演奏だな〜」なんて思ってましたけど、本当に燃えるピアノを弾いていたとは今回初めて知りました。こんな適役は彼以外にいない。しかもそれを既に35年前にやっていたとは。

思えば60、70年代って、楽器を燃やしたり壊したりという表現が、最先端のアートだった時代があったと思います。ジミ・ヘンドリックスのギターが燃え、ザ・フーはスタジオ機材の煙を出し、映画「欲望」の中ではヤードバーズの壊れたギターのネックを奪い合うシーンがありました。なにかこう、「破壊」の意志が満ちていた時代。数ある破壊の中でも、炎上というのは最上級の破壊かと思います。壊れる、というレベルではなく、粉々になる、灰になるんですから。しかも燃え盛る炎という生のイメージと、灰になった死のイメージがすぐ隣合わにあるというのも強烈な対比。ジミヘンもそうだけど、60年代のアーティストは炎から灰へ、生き急いだ人が多かったな〜。

「今回のイベントでは、製造後何十年の廃棄を待つのみという古いピアノに出会うことになる。心からの愛情を持って葬送のレクイエムを弾きたい。同時に、この演奏を、1973 年の映像作品「ピアノ炎上」、それを制作した粟津潔という実験精神に溢れる芸術家、さらに60 年代の実験的前衛的芸術運動全てへのオマージュとしたい。」というのが山下さん自身のコメントです。なるほど、今回彼が見た炎は35年前とは違う。「生き急いだ時代」への線香の火だったか?

今もう21世紀。あれほどみんなを熱狂させた破壊パフォーマンスが、今ではピンと来なくなりました。あの時代からいろんなものが壊れすぎて、今や地球自体が壊れかけている。
もう破壊の火を消さなければ・・・と、そういう大きな話をする前に、今の僕としては、仕事の追われてお尻についた火を消すのに精一杯な毎日があったりなんかして・・・。「形あるものはいつか壊れる、灰になる・・・」と達観するのも悪くない。