Music For 18 Musicians

lo-tus2008-07-12


先日テレビで放映されていたスティーブ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」の日本公演、見ました。もともと大好きな曲なんですが、ライブ映像を見るのは実は初めて。しかもライヒ自身がピアノの演奏に加わっていたし、全体的にどのように演奏されているのかが分かり、あらためてあの曲のスゴさに感激しました。音楽はもちろんですが、舞台上にはピアノ、マリンバや歌手までもシンメトリーに配置されていたのが美しかったし、演奏中に奏者が入れ替わっていくスタイルもおもしろく、いろんな意味で「普通の音楽」ではありませんでした。
ライヒといえば、60年代からの手法、ミニマル・ミュージック(反復音楽)。なかでもこの「18人の音楽家のための音楽」はライヒのいろんな要素がギュッと詰まった名曲だと思っています。曲の冒頭の、あの蜩の鳴き声のような音響で、一気にライヒの世界に引きずり込まれるし、1時間近い大作にもかかわらず、またシンプルなフレーズの反復(少しずつズレたり重なったりしていく)だけの音楽にもかかわらず、その1時間ずっと絶え間なく気持ちいいんです。あの浮遊感、高揚感は一体なんだろう?とずっと不思議でした。今でも不思議なんですけど、その不思議の秘密の一つが、今回演奏を見て何となく分かったような気がします。
その秘密とは、ひと言で言って「人力テクノ」。ああいう幾何学的な音楽は、コンピュータに演奏させるのに向いている音楽だと思うし、実際ライヒの手法は70年代以降の電子音楽テクノ系のミュージシャンに多大な影響を与えています。ところが、その元祖のライヒは、手作り職人的な気質があって、人の手によるアナログ演奏にこだわっているところがミソです。テクノを手動で演っちゃうんです。
もし「18人の音楽家のための音楽」をコンピュータで演ったら、曲の魅力が半減するでしょうね。あくまでも生身の18人の演奏者の音の重なりが一番の聞きどころなわけで・・・。生身の演奏だから、「反復音楽」とは言うものの、実は一度として同じフレーズの反復はありません。なぜなら、同じフレーズでも1回ごとに人力ならではの揺れとかズレが生じるから。そういう揺れやズレが18人分集まって、その時その場だけの音響が生まれてくる。1時間ずっと飽きずに聴けるのは、そういう予想できないめくるめく音響の豊かさにあるのではないかと思いました。
しかし演奏シーンを見ていると、演奏者の動きは機械のように単調に見えます。今何回繰り返したのか分からなくなったらどうするんだろう?とか、途中で眠くなることはないんだろうか?というのは、多分余計な心配でしょうけど・・・。
こうやって今回「18人の音楽家のための音楽」を聞き直して、70年代に作られた曲なのに全然古い感じがしないし、またどんなジャンルにも当てはまらない音楽、あらゆるジャンルを飲み込んでいる音楽だなと思います。
インタビューで「あなたの音楽のジャンルは?」という問いに「それは“音楽”です」と答えていたライヒ氏。演奏後、観客に控えめに挨拶をする彼の姿は、キャップ帽をかぶった気さくなオッチャンのようで、そんなところもカッコイイです。テレビの前で僕も拍手を送りました。
ちなみにライヒ氏は昔、タクシー運転手で生計を立てていたそうですが、そのタクシー乗ってみたいです。当然カーステレオからはミニマル音楽。ニューヨークの摩天楼の下、まあ気持ちいいドライブは楽しめそうですけど、気付いてみると何回も同じところを反復して走り、がっちりメーター上がって・・・恐怖のミニマルタクシーね。