写狂人の旅

lo-tus2009-10-20

最近見たテレビの中で抜群に面白かったのが、プレミアム8「写狂人の旅〜アラーキーと歩く4日間〜」。最近のアラーキー先生のテーマである「日本人ノ顔」の撮影現場密着から、過去の作品・人生に対するインタビューといった内容でした。


公園などでゲリラ的に普通の人・家族を撮影する、ただその様子を見ているだけでも十分に面白かったです。普通僕たちが、見ず知らずの人の写真を取るときには「ちょっとスイマセン、写真撮らせてもらっていいですか?」などと気を使いながら声をかけたりするんですが、アラーキー先生はそんな回りくどいことしません。もう「獲物」を見つけては突然カメラを向けて
「いいね、いいねぇ〜!あ、そこもう1回歩いてみようか・・・そうそうそう、今のいいよぉ〜、ベリーグーだよ!!!」
という感じ。その間に、先生の指は別の生き物のように、ものすごい集中力とスピードでライカのシャッター切り続けている!撮られる側も一瞬ビックリするけど、もう3秒後には天才写真家の罠に落ちて、実に良い笑顔を見せるんですね。写真はある程度、被写体との「共犯関係」ででき上がるとすれば、たった3秒で相手と共謀ができる。これが天才の技かと恐れ入りました。単に写真の技術だけでなく、ヘアスタイルとメガネによって作られるかわいい(?)風貌、下町風の人懐っこいトーク、そして周りを巻き込む竜巻のようなパワー。それら全部を写真のために生かし切っているなという気がします。
最近は人の顔を写すのも、プライバシーだの肖像権だのとウルサイご時世です。しかしアラーキー先生なら、大抵の人は多分、ぜひ撮ってほしいと願うのではないでしょうか?彼はプライバシーを侵害するのではなく、プライバシーを愛撫する、そんな写真家ですから。
もっとも「写真撮ってもらうなら篠山紀信」と決めていらっしゃる方も世の中には多いと思います。荒木経惟とで二者択一を迫られたら・・・、さあ、あなたならどっち??


あるとき、こんな話がありました。アラーキー先生が仕事で奈良に行った時、東京にいる妻の陽子さんに宛てて、落ち葉だけを封筒に入れて手紙を送ったそうです。なんにも書かずに葉っぱだけ。
これ以上かっこいい手紙はないでしょう。なんだかジーンときます。「言葉」じゃなくで、だたの「葉」ですよ。言葉以前のものが伝わってくるような、なんてフォトジェニックな手紙なんだろう、と。


番組ではたくさんの面白い場面、おもしろい話があり過ぎて、ここではとても書き切れないので、せめて頭に残っている天才語録などをいくつか。
・父や母や妻。愛する人と死に別れることで、オレは写真家として行くべき道を教えられた。
・東京の高層ビル、あれは全部四角い墓標だよ。
・朝、歯を磨くより先に目を磨く。朝ご飯の納豆の混ざり具合が「いいなあ」って、写真撮っちゃった。